高濃度ビタミンC点滴療法とは?

がんの治療には手術療法・抗がん剤を用いた化学療法・放射線療法と大きく分けて3つあり、これら3つを組み合わせて行うものを標準治療と言います。

そして上記3つ以外の治療法は代替療法と言われており、現在、様々な治療が行われています。高濃度ビタミンC点滴療法はこれら代替療法の一つであり、がん治療の補助療法で主にアメリカで研究されている治療法です。通常の診療で投与するビタミンCの何倍~何十倍もの量を点滴で投与することにより、がん細胞を死滅させたり、患者さんの体力回復を目指します。がんの初期や手術・化学療法・放射線療法で治療中の方はもちろん、それらが無効の進行がんの患者さんや再発の予防目的の方まで幅広く受けていただくことができます。

体に優しい、副作用のほとんどない治療法として最近急速に知られるようになってきた治療法です。

高濃度ビタミンC点滴療法の歴史

ビタミンCががんに効果的であることは、半世紀以上前から一部の医師たちによって知られ、その治療は実践されてきました。ノーベル賞を2度受賞(化学賞と平和賞)したライナス・ポーリング博士らを中心とした医師たちが、『ビタミンCの大量投与ががんの治療・予防に有効』との説が唱えられましたが、当時は反対意見などもありその後の広がりを見せませんでした。しかし、2005年アメリカ国立健康研究所(NIH)、国立ガン研究所(NCI)、国立食品医薬品局(FDA)の科学者達は共同で「薬理学的な濃度(超高濃度)のビタミンCはがん細胞を選択的に殺す」という論文をアメリカ科学アカデミー紀要に発表しました。2007年には同じ科学者グループが2005年の論文が正しいことを動物実験で確認し、同医学誌に発表しています。

その後、高濃度ビタミンC点滴療法のがん治療への有効性を認めた報告が相次ぎ、現在はアメリカやカナダの多くの医師らがこの治療をがん患者さんに行うようになり、受ける患者さんの数は急増しています。現在は、アメリカのカンザス大学、ジェファーソン大学、カナダのマギル大学、日本の東海大学医学部などで、卵巣がん、子宮がん、悪性リンパ腫、肺がん、膵臓がんなどの患者さんについてこの治療の研究が行われています。

ビタミンCは口から摂取できるのでは?なぜ点滴での投与なのか?

通常、成人の場合1日のビタミンCの必要量は100mgとされています。しかし人間はビタミンCを体内で作り出すことができません。そのため必要量のすべてを食事などで外から摂取する必要があります。では、口からたくさん摂取すれば良いのかと言うとそうでもありません。ビタミンCを口から大量に摂取しても、腸からの吸収が低下したり尿から排泄されたりして吸収できる量は限られているのです。

ビタミンCの効果を有効に発揮させるためにはがん細胞の周りでビタミンCを高濃度に上げる必要があります。そうしないとビタミンCが十分に抗がん作用を発揮できないからです。しかし、お話したようにビタミンCはいくら大量に摂取したとしても口からの摂取では必要な血中濃度まで上がらないことが分かっています。そのため点滴で直接、大量に投与することによって抗がん作用が発揮できる濃度まで上昇させ、そして繰り返し点滴を行うことによってその濃度を維持する必要があるのです。

ビタミンCは体内でどんな働きをするの?

ビタミンCは人間の体の中では主に下記のような働きを持っています。

  • コラーゲンの合成を手助けし、皮膚、血管、粘膜、骨を強くする
  • 抗がん剤であるインターフェロンを生成する手助けをする
  • 抗酸化作用
  • 白血球の働きを強化する(抗がん作用、抗ウイルス作用、解毒作用)
  • 慢性的な疲労を緩和する
  • 動脈硬化を予防する
  • 認知症を予防する
  • 集中力が上がる
  • 老眼、白内障などの進行を抑える

投与を続けることにより免疫システムが増強するだけでなく、がんによる痛みの軽減や食欲の改善が見られることも多く、体調全体の改善も期待できます。

なぜビタミンCががんに効くのか?

通常、ビタミンCが体の中に入ると先ほどご説明したように抗酸化作用など種々の作用を発揮します。しかし、血中のビタミンCが高濃度になると逆に過酸化水素という強力な酸化物質を生成します。がんではない正常の細胞はカタラーゼという酵素が過酸化水素を中和するためこの物質からの影響を全く受けません。一方、がん細胞の多くはこのカタラーゼを持っていないため過酸化水素を中和することができません。このためがん細胞の周囲で生成された過酸化水素はがん細胞に直接作用し、細胞の中に取り込まれ、がん細胞を傷害し細胞を死にいたらしめます。これが高濃度ビタミンCががんに効く理由です。実際、研究室での実験ではヒトのすい臓がん、悪性黒色腫、大腸がん、骨肉腫の培養細胞は、ビタミンC濃度が400mg/dlに達すると死んでしまうことが確認されています。(表1をご参照ください)

また、ビタミンCにはコラーゲンを生成・強化する働きがありますので、高濃度にビタミンCを点滴投与することにより、がん細胞の塊の周りを取り囲むコラーゲン繊維の膜を強化して、がんの発育・転移を阻止する働きもあるのではと言われています。

表1

表1.なぜビタミンCががんに効くのか? 

 

どんな患者さんが治療を受けられるの?

高濃度ビタミンC点滴療法の適応となる患者さんは以下のとおりです。

  • がんの標準治療(手術、化学療法、放射線療法)が無効の場合
  • がんの標準治療の効果をより高めたい
  • がんの標準治療による副作用を少なくしたい
  • 標準治療後の再発を予防したい
  • 手術までの待機期間中の転移を予防したい

もちろん標準治療(抗がん剤治療や放射線治療)がよく効いている場合にはそちらを優先するべきですが、主治医の先生の許可があり可能であれば標準治療との併用をおすすめします。

副作用はどんなものがあるの?

主な副作用としては『点滴を刺した部位の痛み』、『のどが渇く』、『低血糖』、『眠気』、『頭がボーっとする』などがありますが、いずれも点滴メニューの調整や点滴の速度をゆっくりにしたり、水分や糖分を補給することで改善します。まれな副作用として『低カルシウム血症』、『打撲部位の皮下出血』などがあります。それ以外の副作用も各々にきちんと対応することでほとんど重篤になることはなく改善します。

この治療を受けられない患者さんがいるの?

この治療を受けることができない患者さんもおられます。それはG6PDという赤血球膜の酵素に遺伝的に異常がある方で、この遺伝子異常を持っておられる患者さん(G6PD欠損症)はこの治療を受けることができません。この患者さんにビタミンCを大量に点滴すると赤血球が壊れ(溶血と言います)、重度の貧血になることがあるためです。当院では高濃度ビタミンC点滴療法を受ける患者さんには全員必ずG6PDの検査を実施しております。
それ以外には重度の心不全の方、透析中の腎不全の方はこの治療を受けることはできません。また、大量の腹水・胸水、強いむくみのある方は、点滴で水分を血管内に入れることで、体内の水分が過剰になってしまい病状が悪化する恐れがあるため治療ができない場合があります。

当院での高濃度ビタミンC点滴療法について

当院は点滴療法研究会マスターズクラブの会員であり、点滴療法研究会の研修を受け、アメリカで実施されている『高濃度ビタミンC点滴療法の標準的プログラム(Riordan IVC protocol)』と同じものを患者さんに安全に提供しております。また使用するビタミンC製剤も防腐剤入りの国産製剤は使用せず、海外からの冷蔵空輸されたビタミンC製剤のみを使用しています。

本治療は正常細胞に影響を及ぼすことなくがん細胞にだけ強い傷害を与えることができる治療であり、重篤な副作用もほとんどありません。検討していただく価値は十分にあります。

当院ではこの治療に関する診療は完全予約制となっておりますので、詳しいお話はご予約で来院の上、直接医師から説明させていただきます。しかし予約で来院されたからといって必ず治療を受けなければいけないわけではありません。お話をお聞きになってから治療を受けるかどうかをご検討いただいてかまいませんのでお電話または直接受付でお気軽にお問い合わせください。

なお、本治療は健康保険適応外であるため、診療、検査、点滴などすべて全額自己負担となりますのでご了承ください。

 

初診で来院される方へ

初回の来院時には高濃度ビタミンC点滴治療について医師より約1時間の医療相談・ご説明をさせていただきます。

初診の予約日時

月~水・金のいずれかでご予約をお取りいたします。時間は予約時にご相談させてください。問診および院長からの説明にかなりのお時間がかかります。ご来院からお帰りになるまで2時間以上かかることもございますので予めご承知ください。

※必ずお電話または直接受付にてご予約の上、来院ください(予約なしでの診察はできませんのでご了承ください)。

ご負担いただく費用

以下のとおりとなっております(すべて税込)。診察料・検査料・治療費はすべて保険外でのご負担となります。

  • 初診料:11,000円
  • 検査料:G6PD検査・・・11,000円
         ビタミンC濃度測定・・・5,500円
  • 点滴治療費:9,000円~21,000円(1回)(投与量によって異なります) 

 

実際の投与について

当院では、基本的に月~水、金の午後3時30分~予約制となっております。
点滴にかかる時間は投与量や副作用の具合によって変わりますが、およそ2時間前後です。

最初はビタミンCの量は少量から始めます。徐々に投与量を増やしていき、血液中のビタミンC濃度を測定しながら、目標とする血中濃度まで上がっているかなどを確認し有効な投与量を決定します。典型的な例では週に2回の点滴で6ヶ月間継続、その後の経過が良ければ週1回を6ヶ月、さらに2週に1回を1年、その後は月に1回行います。もちろん病状は患者さんごとに違いますので、ビタミンCの量と点滴頻度は病状によって調整していきます。